朝、鍵を回す。
音は、いつも同じだ。
重くも軽くもない。
ただ、決まったところで止まる。
ドアを押すと、少しだけ空気が違う。
冷たいわけでも、暖かいわけでもない。
奥行きが、ある。
円は中を見ない。
必要がないからだ。
カップをひとつ、窓際から少しだけ離す。
光が、わずかに変わる。
それで足りる。
誰も触れていないはずの場所が、先に整っていることがある。
その整い方は、ときどきこの部屋のものではない。
壁の鏡が、わずかに位置を変えていることがある。
額縁の装飾だけが、昨日と合わない。
円は直す。
それで揃う。
誰かが来る。
話をする。
少しだけ、整う。
何かが解決したわけではない。
でも、さっきよりは崩れていない。
人が来ない時間に、書く。
この相談室のオーナーの仕事として、資料をまとめる。
同じ形式で、同じ調子で、静かに整えていく。
内容については考えない。
形が崩れていなければ、それでいい。
夕方、ドアを閉める。
鍵は、朝と同じ音がする。
違いはない。
違いがないまま、終わる。